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2012/09/14

視野を広げるのを少し邪魔されているのに気づいていますか? - ネット上のフィルターバブルが隠しているもの

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The Filter Bubble, 閉じこもるインターネット

 今日のあなたは、昨日と同じだろうか?違うだろうか?

そんな事を尋ねたとしても、人は誰しも、昨日と同様の部分もあれば、異なる部分もある。流れている血も、頭の中の記憶もちょいと違う。これではちょっと面白くない質問かもしれない。

 質問を変えてみよう。昨日と同じ自分でいたい?もしくは、昨日とは何かを変えたい?

 昨日を健康に楽しく過ごしたあなたは、今日もそれを望む。昨日、試合に負けたあなたや、プレゼンを明日に控えたあなたは、より強い自分や視野の広い新しい自分を望むであろう。そしてそれを自分でコントロールしたいし、ある程度、身を以て実践できると信じている。というか知っている。

 でも、本当にそうだろうか?そんな、あなたの当たり前の感覚は、ブラウザを覗き込む間に裏切られているかもしれない。インターネット上で無尽蔵に進むパーソナライゼーションは、あなたが興味を持たなそうなモノを「勝手に」遠ざけ、興味を持ちそうなモノを「勝手に」近づけている。
 「便利じゃないか!」ある人はそう言うかもしれない。でも、ネットのパーソナライゼーションの背後には、こんな声が聞こえる。

 「昨日と同じあなたでいてくれると嬉しい。そうすれば、読みそうなコンテンツも、買ってくれそうな商品も探しやすい。広い世界なんて見ないで!興味も趣向も変えないで!」

 気がつかない間に、人々がパーソナライズされた情報のバブルの中に閉じ込められている。この現象は「フィルターバブル」と呼ばれ、「閉じこもるインターネット(原題:The Filter Bubble)」という書籍で詳しく取り上げられている。

    単行本: 344ページ
    出版社: 早川書房 (2012/2/23)
    言語 日本語
    ISBN-10: 4152092769
    ISBN-13: 978-4152092762
    発売日: 2012/2/23




     著者のイーライ・パリサーが、フィルターバブル(The Filter Bubble)という言葉を使い、インターネット上のパーソナライゼーションを問題視し始めたきっかけの一つは、2009年12月4日に起きたある変化だ。この日から、グーグルは検索結果をよりパーソナライズされた結果へと変えた。あなたが今まで閲覧したものから、あなたのパソコンの位置までが、あなた検索結果に影響する。あなたの為に最適化された検索結果だ。
    Personalized Search for everyone [Google Official Blog]

     パリサーはこう補足する。
    「パーソナライズされたグーグルで、『幹細胞』を検索した場合、幹細胞研究を支持する研究者と反対する活動家ではまったく違う結果になるかもしれない。『気候変動の証拠』も環境運動家と石油会社役員ではまったく違う結果になるかもしれない。調べ物をするとき、ほとんどの人は検索エンジンを不偏だと考える。でも、そう思うのは、自分の主義主張へと少しずつ検索エンジンがすり寄ってきているからなのかもしれない。閉じこもるインターネット, p.11, 強調部分記事筆者

     主義主張が異なる人たちが歩み寄る為に、このパーソナライゼーションはプラスに働くだろうか?(上記の例を原発問題に読み変えても良いかもしれない。)少なくとも、「どのような基準で、どの程度パーソナライゼーションされるか」が明確に開示されておらず、それをユーザーがコントロール出来ない以上、答えは限りなくノーに近い。

     パリサーは、本来メディアがうまく機能すれば現在のバイアスが緩和されると述べる。すなわち、自分とは主義主張が違う人の意見を知り、議論の全体像を把握することで、そもそもの土台や認識が偏らなくなるのである。
    「従来のメディアは、『読みたい』記事に『読むべき』記事を混ぜることで、複雑な問題を理解するという大変だが得るものも多い作業へと誘ってくれる。しかし、フィルターバブルはその逆に働く。クリックしているのは現在の自分であり、どうしても『べき』より『したい』がクリックに反映されるからだ。」Ibid, p144, 一部筆者により補足/強調
    Eli Pariser, photo via poptech

     このようなネットの現状に、二つのものが現れるといいかもしれない。「ユーザーがコントロールしやすいパーソナライゼーション」と「偶然の善き出会い(セレンディピティ)を引き起こしてくれる仕組み」だ。前者はフィルターバブル問題への直接的な対策として。そして後者は、「今のあなたが興味を持ちにくい」且つ「クオリティが高いとされる」コンテンツを引き合わせてくれるような新しいサービスとして。

    Written by Keitaro

    【リンク】
    Eli Pariser: Beware online "filter bubbles" | Video on TED.com
    ログアウトせずにGoogleのパーソナライズ検索を無効にする方法 - F.Ko-Jiのー秒後は未来
      

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