■エスノメソドロジーの始まり
エスノメソドロジーという言葉を聞いた事があるだろうか。
エスノメソドロジーは、社会学者ハロルド・ガーフィンケルの博士論文”The Perception of the Other: A study in Social Order”(1952年)に端を発する。
エスノメソドロジー(Ethnomethodology)という言葉はもともと、社会の成員たち(=エスノ)が自分たちの社会生活を組織する為に持っている方法論(=メソドロジー)という意味で、研究対象を指す言葉だったが、いつのまにか研究自体の名称となった。
エスノメソドロジーが問いかけるのは、簡単に言えば、
「日常における秩序はどのようにして成り立っているか」
である。
■秩序が無ければ闘争すらないでしょ?
トマス・ホッブスは、秩序がなく市民社会のない人間の自然状態を
「万人の万人に対する闘争」という言葉で言い表した。
そして、二人以上の人間が同じ対象を獲得しようとする「競争」は、闘争を生む一つの要因であると述べた。
それに対し、ガーフィンケルが問いを投げかけたのは、「そもそも競争が始まる為には、あらかじめある対象に対して同じ認識がないと奪い合わないんじゃないか?」という点である。
闘争はある一定の秩序に属している人同士で起きるのであり、それ以外は偶然の争いにすぎないのだという。
■秩序を共有するとは?
「ある一定の秩序に属している」と表現したが、
これはどういうことだろうか。
ガーフィンケルは「違背実験(breaching experiment)」によって秩序を壊す事で、
秩序を明らかにする。
簡単に手順を言えばこうだ。
(友人とのありふれた会話において一方が実験者となる)しつこくやっていると殴られそうなものだが、
■A被験者「おはよう。調子はどう?」■B実験者「調子ってなんだい?」■A「いや、元気かどうかってことだよ。」■B「元気かどうかって?どういうこと?」・・・・・と続く。
これにより、日常の活動(会話)には、安定的な相互行為が行われる為の期待
(例えば: 「調子」という言葉がどんなニュアンスかくらいわかっているであろう、という信頼)が双方にあり、それが社会の成員同士の秩序を生んでいることを示している。
■特徴は会話分析
エスノメソドロジスト達は、会話に際立った興味があるわけではなかったのだが、
次第に会話分析がエスノメソドロジーの代表的な方法になる。
なぜなら、日常生活においては会話に以下のような端的な特徴があり、
秩序形成を紐解く上で扱いやすい素材であるからだと言える。
1: 当事者が相互にやり取りをする。
2: お互いが、相手の反応を確認しながらその場を形成する。
3: その背景には上述のような「期待」がある。
(*映画「12人の怒れる男」より)
実際、ガーフィンケルも会話分析をおこなった。具体的には、陪審員達の審議を録音し、陪審員が場面をどのように把握し、如何に共有しているかに注目した研究を行っている。
■まとめ
エスノメソドロジーは以下のようにまとめることができる。
規則が社会の成員を拘束することで秩序が生まれるのではなく、
秩序はそのつどそのつど、成員によって達成される。
だからこそ、そこに秩序が生成されていく様を分析することは
当該社会の理解に資するのである。
[参考]
好井裕明 編, 1992, エスノメソドロジーの現実 ーせめぎあう<生>と<常>, 世界思想社
H. Garfinkel, 1967, Studies in Ethnomethodology
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