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2011/09/04

世界を変えるデザインはエンパワーメントと両立しうるか 〜釣り竿を超えるプロダクトデザインを考える〜

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 [デザインを巡る考察]
世界を変えるデザインはエンパワーメントと両立しうるか
〜釣り竿を超えるプロダクトデザインを考える〜


■LifeStrawとの出会い

優れた機能を持ち、度々思い出すプロダクトに、"LifeStraw"というものがある。
リンク: [世界を変えるデザイン展 出展作品: LifeStraw 概要]

リンク先の記事にもあるように、同プロダクトは、きめの細かいフィルターを通すことによって、どのような汚水も飲料水に変えることができる。毎日汚れた飲み水が原因で命を失う約6,000人の人々を想い生み出された。
今回は、この事例を元に人間とデザインの関係を考えてみたい。

先に申し上げておくと、発想面においても、技術的にも卓越していて、
門外漢の筆者にとっては理屈抜きに称賛したいプロダクトである。
もし、この記事の中に批判に聞こえる部分があったとすれば、「今後どう考えてゆけばよいのだろうか」というニュアンスに読み替えて頂きたい。


■生物工学の倫理からデザインを考える

このプロダクトに対する羨望とともに感じていた「もやもやとした疑問」の所在が明らかになってきたのは、政治学者サンデルの生物工学と倫理に寄せた以下のような文章に出会ったときであった。

サンデルは遺伝子操作によって子供の能力を設計することや、能力増強を試みる事に対してこう述べる。


「われわれ人間の本性に合わせて世界を変更するのではなく、逆に世界に合わせるために人間の本性を変更することは、実際にはもっとも深刻な形態の人間の無力化(ディスエンパワーメント)をもたらす。それは、われわれの目を世界に対する批判的な反省から逸らし、社会的・政治的改良へと向かう衝動を弱めてしまう。」(サンデル 2010 p102)
*太線部筆者


つまり、社会にあわせて、生きやすいように人間の遺伝子を修正するのではなく、どのような生まれ方をした者にも包容力のある社会を生み出していくべきであるというわけだ。

人間に直に手を加える「遺伝子操作」という行為に対して上述のような意見は
説得力がある。しかし、これを「デザイン」に読み替えると、やや事は複雑になる。

サンデルはDNA操作を「人間の本性を変更する」と言い換えている。
一方、デザインは、「本性」とまではいかないが、多かれ少なかれ我々の生活に影響を及ぼし、考え方や主体性、世界の見え方、に影響を及ぼす。
我々は物事を(生きやすいように)デザインするだけでなく、その結果生まれた物事によって生活が変わり、行動や価値観も変わる存在だからだ。

「デザイン」によって完全に決定されるわけではないが、身の回りの「デザイン」から完全に自由になることもできない。
我々を設計するDNAという所与のものを受け入れることと、DNAに操作を加えるという両極の中間「デザインで(誰かにとっての)世界に変更を加えること」は位置する。


■エンパワーメントと魚釣り

エンパワーメントとは、個人(もしくは集団)が主体的に自己決定をし、自分の人生を生きる力・統御感を得ることである。

老子の言葉に「授人以魚、不如授人以漁」
(人に魚を与えれば一日で食べてしまうが、釣りを教えれば一生食べていける)
というものがある。「エンパワーメント」とは、老子の言葉における「釣り」を、必要な技能を身につけて職を得る事や、お金をやりくりする事など、社会的生活を送る様々な能力に押し広げて捉えたものといえよう。

わかりやすい例えなので、ここでは「魚」と「釣り」という比喩を用いることにする。


■デザインは釣り竿止まりか

魚を与えるデザインや、釣り竿としてのデザインはたくさん思いつくが、
釣りを教える(エンパワーメントとなりうる)デザインはどれだけ存在するだろうか。

例えば、グラミンバンクは、制度のデザインを通して「釣りを教える」ことに成功した希有な事例かもしれないが、プロダクトのデザインは人間中心のデザインにはなり得ても、社会的な存在である人間を捉え「釣りを教える」ところまでお節介を働いているものは思い浮かばない。LifeStrawもやはり、釣り竿になりえても、「釣り」を教える手段にはなり得ない。

そんな事を言えば、「じゃあ、毎日6,000人を見殺しにしてもいいというのですね?」という批判を受けるかもしれない。死という差し迫った問題に解決策を提示するプロダクトに対してケチを付けるのは、ほとんどお門違いともいえる。

しかし、論点はそこではない。もしLifeStrawが供給されなくなったとき、それまでLifeStrawに頼ってきた人々はどうすればいいのかに対して、同プロダクトが答えを持ち合わせていないことが、プロダクトを「釣り竿」止まりにさせる要因であり、我々がこれからも考えていくべき課題なのである。
「釣り竿を失った後の釣り」を考えない限り、「釣り竿」を与え続けることは依存を生み、持つものと持たざるものの不均衡は変わらない。

また、プロダクトによって、世界の見え方は知らず知らずの内に規定されている。
魚を得ることが、その人にとって「釣り竿を使って川で行う(スーパーに買いにいく)」ことと同義である限り、釣り竿を失ったら(お金がなくなったら)魚を得る事が途端にできなくなる。(他にも、「火をおこすこと」と「ガスコンロのスイッチをひねること」などに読み替えられる)

水を得る事がLifeStrawを使う事とほぼ同義になってしまった時、LifeStrawを失うことが死と同義のリスクとなってしまうのである。

デザインしたものによって、利用者に変化が生まれるならば、
どうやら我々は、「どのような利用者を生むか?」「利用者はどのように変わるか?」まで思いを馳せる必要がありそうだ。


■釣り竿を超えて

「世界を変えるデザイン」という言葉は「世界に数多ある社会課題を解決する為にデザインで如何に貢献することができるだろうか」という発想から生まれたフレーズである。しかし私にとって、次第にそれは以下のような響きも帯びはじめている。

デザインが世界を(そして利用者にとっての世界観をも)変えるからこそ、その力はどのように発揮すればよいのだろうか。

デザインがエンパワーメントになり得るには、きっと以下のような点に気を配らなければいけない。

  • 長期的な視野を持つ事
  • 輸送が前提であってはならない
  • ブラックボックスであってはならない

これらは一続きの論理になっていて、
デザインしたものが突然失われてしまうなど、あらゆる不測の事態に備える長期的な視野を持つ事が重要であるとすれば、当該地への輸送が前提であってはならず、また、仕組みがブラックボックスであることも利用者のディスエンパワーメントに加担してしまう為、できる限り避けなければいけない。
という考えに則っている。これは、エンパワーメントとしてのデザインを考える上での一つの案にすぎず、他にも多様なアプローチが広がっていることは間違いない。

いずれにせよ、思考ばかりで行為停止になる事も、行為ばかりで思考停止になる事も、どちらも同じように危険なことである。デザインを考え、実践していく際にも、そのバランスに気をつけていかなければならない。


【参考】

マイケル・J・サンデル, 2010, 完全な人間を目指さなくてもよい理由 ー遺伝子操作とエンハンスメントの倫理, ナカニシヤ出版
・世界を変えるデザイン展 http://exhibition.bop-design.com/

photo by Mohamed Malik
(updated: 体裁を少し修正2012/04/04) 
 
Written by Keitaro

2 件のコメント:

Kenji さんのコメント...

面白かったです。ちなみにLife Straw に似た商品として、Ceramic Water Filtersというプロダクトがあります
http://www.rdic.org/water-ceramic-filtration.php

ただこれとLife Straw との違いは、その作り方がその地に合っている、もしくはその土地で作る事が出来る、というモノです。ある意味作る過程、素材選びから利用までをDesign しているプロダクトでもあると思います。
どこまでをDesign するかで変わってきますよね。ただこれもある意味Design を提供する側が非常に良いものを提供したという例である事には変わらず何かを理解した上で自主的に作り上げるというdesign には遠いのかもしれません。考えどころですね。Education とDesign という方向等になるのでしょうかね・・・
非常に興味のあるトピックであったので楽しく読ませて頂きました。ありがとうございます。

Kei さんのコメント...

コメントありがとうございます!
「どこまでをデザインするか」というのは思った以上に深い問題のようですね。

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