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2012/04/21

ブレインストーミングを疑え - デザインストラテジストDaniel Sobol氏の論考

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先日はちょっとふざけた記事でしたが、今回はわりと真面目な話題。演劇と人類学のバックグラウンドを持つ、デザインファームのストラテジストが、ブレストに関してfastcompanyのデザイン系メディアCo.Designに寄稿している。今回は、同記事『Innovation Is About Arguing, Not Brainstorming. Here’s How To Argue Productively - by Daniel Sobol』をかいつまんで紹介。


デザインファームContinuumでデザイン・ストラテジストを務めるDaniel Sobol氏はCo.Designに『Innovation Is About Arguing, Not Brainstorming. Here’s How To Argue Productively - by Daniel Sobol』という記事を寄稿している。

ざっくりと言えば、「ブレストは本質ではなくて、手段。イノベーションを生むにはそのコアで機能する『議論』をきちんと捉える事が必要なので、今一度、真剣に考えてみよう」というようなお話。具体例として、デザインファームで実践している「Deliberative Discourse」を紹介している。


▶ブレインストーミングが目指したもの

ブレインストーミング(以下ブレスト)は、新しいアイデアを生む必要が有る場面において、1940年代以降、頼られ続けてきた。(意外と長い歴史!)
一方で、最新の脳神経の研究によれば、ブレストは、個々人の「拒絶される恐怖」を生む引き金になることがあるらしく、必ずしも「一人」の力を超えるアイデアを約束してくれるとは限らないのだとか。

photo by sincretic

Sobol氏は、ブレストの根底にあるアイデアには賛同している。壁を突き破るアイデアを生み出すために、特定の状況下におかれることが、人々の背中を押してくれることは間違いない。例えば、想像力をかき立ててくれ、良いアイデアも悪いアイデアもたくさん生まれる様な環境だ。
それはつまり、「議論が程よく加熱し、誰かの投げてくれたアイデアを、また違う誰かが批判的に精査」し、それと同時に「アイデアを提示した人は攻撃的に批判されたとは感じない」という様なバランスのとれた状況である。必ずしも「ブレスト」にとらわれすぎず、このような状況を生むにはどうしたらよいのだろうか。
 

▶「Deliberative Discourse」という実践 - デザインファームContinuumの場合

Sobol氏の働くデザインファームContinuumでは、「Deliberative Discourse(討議の為の会話)」という手法を用いているのだという。Deliberative Discourseは社員の間では「主張⇒議論⇒主張⇒議論(Argue. Discuss. Argue. Discuss.)」と呼ばれ、このようなサイクルを回すことを指す。

Deliberative Discourseの歴史は、アリストテレスのレトリック(修辞学/弁論)にまで遡る。その特徴は大きく分けて二点。『参加型(participative)』である点と『集団(collaborative)』だ。ブレストと異なり、批判的な意見も良しとしている。

共通の前提の上で、多様な立場と意見が表明され、参加者皆が共有するゴールへと議論を進めていく。参加者の間に権力(権限)の差はない。ディベートとも違う。なぜなら、勝ち負けを決める為の議論ではないからだ。むしろ共同で問題を解決し、『新たなアイデアを生むための作業』だといえる。
- Co.Design: Daniel Sobol
Multiple positions and views are expressed with a shared understanding that everyone is focused on a common goal. There is no hierarchy. It’s not debate because there are no opposing sides trying to “win.” Rather, it’s about working together to solve a problem and create new ideas.



▶「Deliberative Discourse」の実戦と5つのルール

誰かがアイデアを出し(主張: Argue)、それを元に皆が議論し(議論: Discuss)、その過程で生まれた主張から、また更に議論に繋がっていく、というのが「主張⇒議論⇒主張⇒議論」のプロセスだ。Sobol氏は、こういった環境を生む為の5つのルールを提示している。以下の5つを続けて紹介したい。
1. NO HIERARCHY
2. SAY "NO, BECAUSE"
3. DIVERSE PERSPECTIVES
4. FOCUS ON A COMMON GOAL
5. KEEP IT FUN 


1. NO HIERARCHY (対等な議論の場)
参加者の間では、例えば、新卒から役員まで全ての人が対等に議論すべきだという考え。このような環境を生む為には、特に上司側の心遣いが重要と言えるかもしれない。
Sobol氏は自身のデザインファームでの経験を振り返り、プリンシパルが「一日一度も私の意見に反対しないようなら、それはむしろ仕事をしてないようなものなんだよ。」と言ってくれたことに感謝している。それにより、恐れる事無く、自分の意見を素直に伝えることが出来ると実感したのだという。

2. SAY "NO, BECAUSE" (「違うと思う、なぜなら」と言ってもいい)
ブレストにおいては、「Yes, AND」で議論を積み重ねることが推奨(崇拝)されているが、ここでは逆だ。「Yes, AND」同様に、「No, BECAUSE」も重要だという考え。 ただ、そのbecauseの背景にはそれを指示するファクト(事実)ベースの理由が必要である。
注意が必要なのは、その「事実」というのが、議論の参加者にとってだけの「事実」であってはならず、常に生活者である「人々」から見いだした事実であるべきという点だ。 その為、デザインファームでは、エスノグラフィック・リサーチを通じて「現場」で実際に起きていることを議論に昇華する努力がなされている。

3. DIVERSE PERSPECTIVES (多様性をうまく機能させよ)
「Deliberative Discourse」では、専門性の異なる多様なメンバーの参加がうまく働く。とくに「T字型」と呼ばれるように、自分の専門性と共に一般的な話も広くできる人は、今までもこれからも貴重な専門家像だ。Sobol氏の専門が、「演劇」と「文化人類学」であるように、その多様さを活かすメンバー編成は重要だ。(生物学出身のプロダクトデザイナーや、英語教師出身のイノベーション専門家など)ブレイクスルーとなるアイデアが、誰かの専門領域から生まれたりする。

4. FOCUS ON A COMMON GOAL (共通のゴールを見据えよ)
よくある「議論の為の議論」陥ってはならない。参加者全員が共通のゴールを把握していてこそ、議論は初めて生産的でありうる。

5. KEEP IT FUN (楽しくね!)
デザインファームは、「貧困層向けのバンキングシステム」「未来のピザ」から「命を救う医薬関連製品」まで多様なプロジェクトを回している。そのプロジェクトがどのような特徴をもっていようと、Sobol氏は「楽しくあること(Keep it fun)」を大切にしているという。

イノベーションのミソは、『慎重な議論』にある。 Sobol氏はこう締めくくる。"ブレスト(brainstorm)するのではなく、協議/熟慮(deliberate)するのだ。(We don't brainstorm. We deliberate.)"

【リンク】
Innovation Is About Arguing, Not Brainstorming. Here’s How To Argue Productively - co.design
米デザインファームCONTINUUM公式ページ
米デザインファームCONTINUUM Facebookページ

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