[事例]
「私たちは何人で世界中全ての人と繋がるか」
〜心理学者ミルグラムと社会学者ワッツの実験〜
おそらく多くの人が、「知り合いを〜人辿っていけば、世界中全ての人と繋がる」といった話題に出くわした事があるのではないでしょうか。
今回は、その発端となった研究、1960年代におこなわれたスタンリー・ミルグラムの研究と、2002年におこなわれたダンカン・ワッツの研究に関して紹介します。
■スタンリー・ミルグラムの実験(1960年代、アメリカ)
ミルグラムはといえば、アイヒマン実験など、少々不気味な実験で有名ですが、
同時に、人間のつながりに関しても実験をおこなっています。
[手法]
ミルグラムがこの調査をおこなうのに用いたのは「手紙」でした。アメリカのネブラスカ州の十人数百人を対象に、ミルグラムは「手紙を、ボストンのボストンのビジネスマンに送る」指示を出します。
手紙を渡せる相手は直接の知人のみ、また、ボストンのビジネスマンと個人的関係が自分よりも深そうな人を選ぶ、という指示のもと、調査が始まります。
[結果]
すると、平均して「6人を経る」ことで目的の人に到達することが分かり、「世界は平均して6人で相互につながっている」ということが示されました。ミルグラムのこの実験結果は「六次の隔たり(Six Degrees of Separation)」という言葉で知られています。
■ダンカン・ワッツの実験(2002年、アメリカ)
ミルグラムの行った実験は、千キロメートルを超える距離はあったにせよ、アメリカ国内での実験にすぎなかったため、多くの懐疑論も生まれます。そこで、社会学者のワッツが2002年におこなったのが、eメールを用いた実験です。
[手法]
「手紙」を用いたミルグラムに対し、ワッツは2000年代ならではのツール:「eメール」を用います。ワッツは、ミルグラムの実験を地球規模で再現しました。10万人近い被験者を募り、世界中の指定された目標にむかってメッセージを送るように指示をだします。例えば、アイビーリーグの大学の教授宛、インドのITコンサルタント宛といった具合に。
[結果]
驚いた事に、結果はまたしても平均「6人」で到達する、というものでした。ミルグラムが1960年代に出した見積もり「六次の隔たり」は、今でもなお有効だったのです。
ただ、手紙やeメールでは、「出しやすい相手」という調査対象者の心情が少なからず影響してくると考えられます。例えば、ボストンのビジネスマンに近づけたくても、「海外赴任のビジネスマンAさんは忙しそう(or 最近仲が悪い)だからメールを送るのはよそう」などといった具合に。
その点、FacebookのようなSNSの持つ情報は、ドラスティックにこの研究を上書きする可能性を秘めていると言えます。(表にはデータが出てこないので、企業内で調査が行われる必要がありますが)
実際にmixiのエンジニアは2008年に実験を行っており、ユーザー間の平均距離は5.4人という結果が出たそうです。
*[参考]
J. Travers and S. Milgram, "An Experimental Stusy in the Small World Problem," Sociometry 35, no. 4(1969): 425-43.
P.S. Dodds and others, "An Experimental Study of Search in Global Social Networks," Science 301(2003): 827-29
*[リンク]
ミクシ開発部 mixiのスモールワールド性の検証
WIRED VISION 増井俊之の「界面潮流」第52回自己正当化の圧力
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