専門を異にするメンバーによるデザインユニット FRAD (Field Research and Design) のジャーナル『Open Field Notes』
Design ThinkingInnovation、Ethnographyを始め、多様な話題を多様なメンバーがお届け
About Us / Home Page(準備中) / Twitter: FRAD_tweets / Facebook: Facebook Page / Contact(お問い合わせ)

2012/06/04

義肢デザイン3.0 「魅せる/拡張する」医療装具は「常識」を変える

このエントリーをはてなブックマークに追加

photo via fboosman

医療に関連したデザインの調べ物をする機会があった。中でも特に、補聴器や義足、義手など、人の(失われた)機能を補う装具のデザインだ。
その過程で、浮かび上がってきたのは、医療装具デザインのパラダイムがゆっくりとではあるが、大きく変わりつつあるということ。今回は「義肢」を例に、医療装具のデザイン哲学を取り上げる。

▶義肢1.0:義肢の誕生「補う」

一般的に腕の義肢は義手、足の義肢は義足と呼ばれる。これら「義手」や「義足」といった呼称の方は、一般的にも知られている呼称であろう。
機能を「補う」義肢の歴史は古く、発見されている最古のものは紀元前9世紀頃の義肢だ。これは、英マンチェスター大の研究チームによりエジプトで発見された親指の義肢である。


photo via afp

見つかった義肢の構造は、実際に歩行時の負担を軽減することが証明されている。

また、中世ヨーロッパにおいては、戦火の中で手足を失う兵士が多く、義足や義手の騎士、軍人が記録に多く残されている。義肢の技術が多きく進歩したのは、第一次世界大戦以降だ。戦場で多くの兵士が負傷し、需要が大きく高まったことは想像に難くない。


▶義肢2.0:義肢の進歩「隠す」

整形医療や繊維技術の進歩は、 義肢をより身体にとけ込ませることを可能にした。装具はより自然な色「肌色」に近づき、素材も肌に近づこうとしている。


身体にとけ込ませること、すなわち、義肢自体がその存在を隠すことは、機能を補うことと共にQoL(生活の質)向上に欠かせないとされる。


▶義肢3.0:「魅せる/拡張する」義肢へ

このように義肢は「補う」「隠す」ことが一般的な中、俊足の義足、ファンションショーに出る義足、身長が高くなる義足などが登場している。
アスリート、女優、モデル、活動家のエミー・マランスにとって、これらの義肢を使い分けることは日常だ。


彼女と「12組の足」が証明する義肢デザインの新たな力は、TED Talksにて彼女自身の言葉で表されている。


義肢はもはや失ったものを補うのではない
新たに生まれた空間に装着者が自由な創作を可能にする力の象徴
身体障害者とされてきた人々は、今や自分の個性を演出できるんです

- エミー・マランスAtsuko Saso訳

義肢はもはや、身体機能を補うだけでなく、美を「魅せる」、機能を「拡張する」高みへと進もうとしている。他にも、株式会社テミルがブログで紹介されている義手も同様の発想だ。

義肢とは異なるが、補聴器でも同じ兆しが見え始めている。2009年にグッドデザイン賞を受賞したPanasonicの補聴器は「魅せる」哲学を前面に押し出している事例だ。


これら、新しいパラダイムのデザインに共通するのは、
「『障害』を『健常』に近づけるためのデザイン」ではないということ。

それは、手を失おうと、聴覚を失おうと、
「『私』という個の生き方そのものを肯定し、補うだけでなく促進(enhance)してくれるデザイン」 
なのである。

Written by Keitaro

【リンク】
エジプトのミイラの足に人工親指、最古の「人工器官」発見 - AFP
エミー・マランスと12組の足 - TED Talks
HOSPEX Japan 2010 特別企画 医療を変えるデザイン - Sense of Space 44
そこが知りたい家電の新技術 パナソニック、新コンセプトの「補聴器」が売れている理由 - 家電Watch
2009年度グッドデザイン賞受賞 - Panasonic

0 件のコメント:

コメントを投稿

Related Posts Plugin for WordPress, Blogger...