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医療に関連したデザインの調べ物をする機会があった。中でも特に、補聴器や義足、義手など、人の(失われた)機能を補う装具のデザインだ。
その過程で、浮かび上がってきたのは、医療装具デザインのパラダイムがゆっくりとではあるが、大きく変わりつつあるということ。今回は「義肢」を例に、医療装具のデザイン哲学を取り上げる。
▶義肢1.0:義肢の誕生「補う」
一般的に腕の義肢は義手、足の義肢は義足と呼ばれる。これら「義手」や「義足」といった呼称の方は、一般的にも知られている呼称であろう。
機能を「補う」義肢の歴史は古く、発見されている最古のものは紀元前9世紀頃の義肢だ。これは、英マンチェスター大の研究チームによりエジプトで発見された親指の義肢である。
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見つかった義肢の構造は、実際に歩行時の負担を軽減することが証明されている。
また、中世ヨーロッパにおいては、戦火の中で手足を失う兵士が多く、義足や義手の騎士、軍人が記録に多く残されている。義肢の技術が多きく進歩したのは、第一次世界大戦以降だ。戦場で多くの兵士が負傷し、需要が大きく高まったことは想像に難くない。
▶義肢2.0:義肢の進歩「隠す」
整形医療や繊維技術の進歩は、 義肢をより身体にとけ込ませることを可能にした。装具はより自然な色「肌色」に近づき、素材も肌に近づこうとしている。
身体にとけ込ませること、すなわち、義肢自体がその存在を隠すことは、機能を補うことと共にQoL(生活の質)向上に欠かせないとされる。
▶義肢3.0:「魅せる/拡張する」義肢へ
このように義肢は「補う」「隠す」ことが一般的な中、俊足の義足、ファンションショーに出る義足、身長が高くなる義足などが登場している。
アスリート、女優、モデル、活動家のエミー・マランスにとって、これらの義肢を使い分けることは日常だ。
彼女と「12組の足」が証明する義肢デザインの新たな力は、TED Talksにて彼女自身の言葉で表されている。
義肢はもはや失ったものを補うのではない
新たに生まれた空間に装着者が自由な創作を可能にする力の象徴
身体障害者とされてきた人々は、今や自分の個性を演出できるんです
- エミー・マランス(Atsuko Saso訳)
義肢はもはや、身体機能を補うだけでなく、美を「魅せる」、機能を「拡張する」高みへと進もうとしている。他にも、株式会社テミルがブログで紹介されている義手も同様の発想だ。
義肢とは異なるが、補聴器でも同じ兆しが見え始めている。2009年にグッドデザイン賞を受賞したPanasonicの補聴器は「魅せる」哲学を前面に押し出している事例だ。
これら、新しいパラダイムのデザインに共通するのは、
「『障害』を『健常』に近づけるためのデザイン」ではないということ。
それは、手を失おうと、聴覚を失おうと、
「『私』という個の生き方そのものを肯定し、補うだけでなく促進(enhance)してくれるデザイン」
なのである。
Written by Keitaro
【リンク】
エジプトのミイラの足に人工親指、最古の「人工器官」発見 - AFP
エミー・マランスと12組の足 - TED Talks
HOSPEX Japan 2010 特別企画 医療を変えるデザイン - Sense of Space 44
そこが知りたい家電の新技術 パナソニック、新コンセプトの「補聴器」が売れている理由 - 家電Watch
2009年度グッドデザイン賞受賞 - Panasonic
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