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2012/01/17

フリーエコノミー生活が教えてくれる共生の為の3つのヒント - アイルランドの青年による実践経済学

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2010年に原著が発行され、2011年末に日本語訳書が刊行されたのが、Mark Boyle(以下、筆者)による"The Moneyless Man - A Year of Freeconomic Living(邦題: ぼくはお金を使わずに生きることにした)"という本だ。英語のメインタイトルの"Moneyless"という部分は、言わばアイキャッチであり、本書の核心ではない。むしろサブタイトルである"Freeconomic Living"(お金から自由な生き方)が筆者の意図に近いであろう。


注意したいのは、内容が「お金を使わずに自然の中でサバイバル生活をして、こんな風に苦難の一年を過ごしました」というものではないという点だ。むしろ、描かれているのはベジタリアンにとって肉を食べない日常に近い(むろん、そのレベルに達するまでの困難はあるが)。Freeconimic(お金から自由)な一年を過ごしたことで、筆者はその生き方に豊かさを見いだし、もとの(お金を使う)生活に戻りたいかどうか本気で悩んだ程だ。


筆者は、大学で経済学を学んだ後、オーガニック食品業界を経て、2008年の「国際無買デー」から1年間、お金を使わない実験を開始した。「世界を変えたければ、まず自分がその変化になりなさい」といったガンジーの思想に刺激を受けた彼は、社会問題に対する自らの考えを実践に移す。

彼の問題意識は、端的に言えば「お金という道具が生まれてから、消費者と消費される物との間の断絶は広がり、それが搾取工場、環境破壊、工場畜産、資源争奪戦といった諸悪の引き金となった」というものだ。


▶断絶度『1』の法則

筆者は、フリーエコノミー生活を若さと勢いで始めたのではない。始める前の入念な準備や、ルール設定を怠らなかった。その中でも「消費の『分解』リスト」は重要な位置を占める。

分解リストは「自分がお金を使ったものを片っ端からノートに書き出」し、「必要としている全ての物を、お金を介さずに手に入れる方法を検討」する為のリストだ。筆者が気づいたのは、自分が消費するほとんどの物との「断絶度」を1ポイント以内に収める必要性だ。すなわち、自分で作る(断絶度0)か、作る人と知り合いになる(断絶度1)かである。


▶今更だけど、ペイ・フォワードはやっぱりイイ

一般的に、「お金のある」の生活との対比で持ち出されるのは「バーター取引(物々交換)」だ。しかし、バーター取引には「無条件に与える」という精神が欠けている。筆者は、その代替策として「ペイ・フォワード」の法則を理想とした。先に挙げた、断絶度『1』のサイクルをまわす為にも、この法則は彼にとって重要な支柱だ。

筆者は以下のように述べる。

ぼくは従来のバーター取引の代わりに、ペイ・フォワード経済を取りいれるよう心がけている。つまり、無償で与え、無償で受け取るのだ。(中略)誰かが、ただそうしてあげたいからという理由で、見返りを期待せずに何かをしてくれたとき、それは強い力を持つ。何よりまず自分自身のことを考えよと教えられている二十世紀にあってはなおさらだ。(中略)自然界はこの法則に従っている。リンゴの木は、果実を無条件に与える。現金もクレジットカードも要求しない。その種が鳥などの力で離れた場所へ運ばれることを信じて、ひたすら与えている。その結果、地上にはさらに多くのリンゴがもたらされる。(ボイル 2011, pp 36 - 37)

こういった「持ちつ持たれつの関係」は、人類学が長きにわたって注目してきた広い意味での人間の経済活動(互酬性)を想起させる。相手との関係を長く強固なものにしたい時、人は「与えられた物の対価をすぐに返す」ことはしないし、「等価のものを返す」こともしない。

往々にして、返礼は時間をずらしておこなわれるし、受け取った物よりも高い価値の物を返礼する「ズレ」がその先の返礼の連鎖を促進する。(レジを挟んだ二人と、友人と行くバー、お歳暮、お年玉の違いを想起してみて欲しい)

最近、書店に行けば、嫌というほど目にする「シェア(共有)」という言葉は、そこかしこで「何かよいもの」という論調で受け止められているが、同じ理解が広く共有されているとは思えない。個々のペイ・フォワードの実践を鳥瞰的に見た時に立ちあらわれるような「シェア」には可能性を感じるが、「私も出すから、あなたも」という姿勢でおこなわれるシェアは、バーター取引と大差ない。その意味で、例えばシェアという現象の可能性を考えるにしても、ミクロな実践に注目する必要がある。


▶「誰の為の」活動?

フリーエコノミー生活の期限も終わりにさしかかった頃、筆者は多くの人との出会う中で、「インクルーシブ(包括的)」な活動の重要さを痛感する。すなわち以下のようなポイントだ。

得てして活動家は「地球をすくいたい」なんて言うけど、地球はきっと大丈夫、時間が経てば回復するだおう。救済が必要なのは人間なんだ。だとしたら、いったい誰を「救いたい」のか。活動家仲間だけか。活動家と労働者階級だけか。それとも、銀行の幹部も、環境保護主義者も、警察官も、人権活動家も、政治家も、みんなひっくるめたすべての人なのか。(Ibid, p 214)

あらゆる立場に居る「多くの人」を含めば含む程、達成が困難なのは間違いない。しかし、「平和とは、天からふってくるものではない。人間どうしの、そして人間と地球の間の、日常的なかかわり合いを寄せ集めたモザイク画のようなもの」(Ibid, p 210)である。そして、どのような分野にいる人であっても、これからの持続可能な世界を考えるのであれば、このインクルーシブネス(包括性)が重要であることは間違いない。

Written by Keitaro

【参照書籍】


単行本: 288ページ
出版社: 紀伊國屋書店 (2011/11/26)
言語 日本語
ISBN-10: 4314010878
ISBN-13: 978-4314010870
発売日: 2011/11/26
商品の寸法: 19.2 x 13.9 x 3.5 cm

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